大阪ブランド情報局

「創作塾」で作家を育てる

有栖川有栖さん

  なにわの歴史は上町台地にはじまる。
難波宮跡近くに住まいを定める有栖川有栖さんは、いま「天王寺七坂」にまつわる怪談シリーズを執筆中である。真言坂、源聖寺坂、口縄坂、愛染坂、清水坂、天神坂、逢坂の七坂の、しっとりとした怪談を通して、大阪の歴史の奥深さを描くのが狙いだ。
「大阪の歴史はただものではないことを知ってもらいたい」という。

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  同志社大学を卒業後、29歳で最初の本を出してからちょうど20年、「作家アリスシリーズ」、「学生アリスシリーズ」を始め、『マレー鉄道の謎』、『女王国の城』など数々の作品を世に出してきた。仮にあと20年作家生活を続けるとすれば今が折り返し点、やりたいことを早くやってしまいたいと気がせくという。
  気がかりは、大阪には有名作家がたくさんいるのに、編集者や出版社が東京に集中していることだ。映画やテレビドラマになると、東京でないと仕事にならない。だが、東京のスタジオでは標準語ばかりではなく、関西弁や西日本の方言が飛び交っている。
  「全国から優秀な人材を吸い上げて、なんでも東京だけになってしまうと、結果的に日本全体の体質が虚弱になる」。  そこで、不定期だが、在阪テレビ局で視聴者が犯人やトリックを推理する双方向型のドラマ「安楽椅子探偵」シリーズを始めた。この10年で7本を製作している。
  また、放送作家の中山市朗氏に誘われ、作家の養成講座「作劇塾」で、小説家を育成する「創作塾」の塾長を務める。1期が3カ月で6回。地下鉄堺筋本町駅近くの教室には、大阪をはじめ、和歌山、滋賀、三重、北九州からも受講者が通ってくる。新人賞の締め切り前になると、塾に来るより自宅で執筆に専念するよう勧めているが、作品を添削したり合評したり、食事会を開いたり、みんなで刺激し合いながらも和気藹々と創作を楽しんでいる。
  始めて3年目、有望な人が育って来ている。「ささやかな試みではあるが、大阪や西日本でがんばっている人たちを応援して、世に出る手伝いができれば」。
  「ものを書くことだけなら大阪でできるが、小説のことや、出版社の情報を仲間と話せる機会がない。東京だとパーティや授賞式などが頻繁にあり、いろんな人と会える。大阪在住の作家とも東京でめぐりあう方が多い。大阪にも作家クラブやサロンがあれば、仲間を増やすことができる。ゆくゆくは創作塾の出身者が集まって交流の場をつくれれば、大きなパワーになるのでは」と夢を語っている。
  静かで端正な話し方の中に、大阪への愛情のまなざしがあふれている。
  とある日、天王寺七坂界隈を思索にふけりながら一人歩く紳士を見かけたら、それはもしかして有栖川有栖さんかも知れない。

(文:堀井良殷 写真:谷川瑠美)

取材日:2009年11月17日

〔参考〕
創作塾 http://sakugeki.com/sousaku/index1.html