大阪ブランド情報局

アートを多様に社会還元

木ノ下智恵子さん

 「知デリ」。符丁のような、こんな言葉を耳にする。専門知識、表現や技術(知術)を社会還元(デリバリー)するというトークイベントの通称だ。新しい学びの場として、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)が試みている。これまで、例えば、嗅覚研究の科学者と言語学者がフェロモンをテーマに、ロボット学者と劇作家がロボット・獣・人間を主題に、一般市民を前にやりとりした。
 CSCDは科学技術、哲学、アートなど多分野の専門家で組織される。アートプロデューサーの木ノ下智恵子さんもその中心メンバーだ。鷲田清一総長に請われて、05年4月、開設時に特任講師に就任、企画・制作などに取り組む。
 木ノ下さんは、CSCDの活動を「コミュニケーション不全時代といわれるが、大学も同じ。研究の専門化が進み、専門以外の人との対話がうまくできない状況がある。専門家と非専門家をつなぐコミュニケーションのあり方をデザインするのが大きな役割」と解説する。

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 大学と社会が連携する「社学連携」も活動の柱。建設中の大阪・中之島線のなにわ橋駅の工事現場で06年10月、京阪電鉄などと共同で実験イベント「駅ができる!」を企画。地下でダンス、地上で専門家と市民が対話する「哲学カフェ」「サイエンスカフェ」などを開いて反響を呼んだ。昨秋は、地下工事現場でファッションショーを開いた。今度はいつでも「○○カフェ」ができるよう、なにわ橋駅構内に常設カフェを開設する計画を進めている。
 木ノ下さんは94年、神戸芸術工科大大学院を修了後、複合文化施設「神戸アートビレッジセンター」(神戸・新開地)で約10年間、若手アーティストの発掘、育成にかかわってきた。学生時代までは作品の制作もしていたが、社会人になってからはもっぱら作家をサポートする側。「アーティストと一緒になって作品世界を作り上げるのは、自分で制作するのとは違った喜びがある」と話す。まちづくりプロジェクト「新開地アートストリート」など、さまざまなアート活動にも参画、今ではアートイベントの話になると決まって木ノ下さんの名前が出るほど。
 「実験」という言葉を好んで使う。「大阪は実験精神があふれている。とりあえずやってみようという精神がある。問題は連携して、どうして形にしていくかだ」。
 江戸時代、大阪の町人が作った学問所「懐徳堂」が4月、大阪大豊中キャンパス(大阪府豊中市)に「21世紀懐徳堂」として復活、カフェ活動などを展開する。木ノ下さんらの新たな社学連携の「実験」が始まる。
(文:七尾隆太 写真:仲田千穂)

取材日:2008年2月4日

[参考]
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/