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2007年12月14日 (金)

上方文化再生フォーラム~上方の浮世絵、道頓堀の役者絵~

Photo かつて芝居小屋や茶店が立ち並び、上方文化が花開いた大阪・ミナミ。早稲田大学演劇博物館の協力で始まった「上方文化再生フォーラム」2回目のテーマは「上方の浮世絵」。立命館大学先端総合学術究科教授の赤間亮(あかま・りょう)先生の講演がTORII HALLで行われました。
浮世絵というと、写楽の役者絵、歌麿の美人画など「江戸浮世絵」を思い浮かべることが多いでしょう。しかし、ここ大阪にも”Osaka Prints”として世界中の美術館でコレクションされている「上方浮世絵」が存在したのです。
<その特徴>
・役者絵が多い。
・小さいサイズが多い。(一般的な大判(B4)ではなく、半分の中判(B5))
・金・銀・銅粉を使用。(江戸浮世絵では使用できなかった)
・ありのまま・・を表現。役者を格好良く仕上げる江戸に対し、体裁にこだわらず強い線で人間を表現する上方。”本音好き”の大阪人は今も昔も変わらないようです。

Photo_5浮世絵版画制作は、絵師・彫師・摺師による完全分業制。
今回のフォーラムには、彫師の北村昇一(きたむら・しょういち)さん、摺師の中山誠人(なかやま・まこと)さんを招いての実演がありました。
一枚の華麗な浮世絵が出来上がる過程を間近に見るめったにないチャンスです。
現在、上方浮世絵の絵師さんはいないため、広重の京都名所より「淀川」を版元として使用。薄紙を使って版木(山桜の木)に図柄を写し取ったものを彫っていきます。

1.彫り                                                                
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まずは墨線に沿って線が凸になるように刃を入れ、次に面積の広い部分を削っていきます。とても細かい作業。市販の彫刻刀で最も細いものは1mm。それで対応できない時は、ミシン針を使ってオリジナル彫刻刀を作るそうです。
「もし、失敗して必要なところを削ぎ落としてしまったら?」
同素材の木で作った楔を打ち込み、きれいに面を合わせて修復するそうです。
ダメージが大き過ぎる場合は、板ごと差し替えることもあるとか。集中力を持続するのが本当に大変そうです。

2.摺り
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湿らせた和紙に、まずは墨線、次に色が薄くて面積の少ない色から摺っていきます。
今回は、黄色→肌色→紺の順、色合いは、泥絵具+のり+水で調整していきます。
道具の話を少し。
Q1.版画に使うバレンの素材は何?
A1.竹の繊維。バレン1個に編みこまれる竹の繊維は、なんと30m!作るのは大変ですが上手に使えば一生もの・・だそうです。

Q2.絵具を板に塗る刷毛の材料は? 
A2.馬の尻尾の毛。鮫皮で削って滑らかにする昔ながらの手法が残っています。

Q3.絵具を重ねていくと、そのうち板の溝が詰まって無くなるのでは?
A3.墨や絵具が固まってしまわないよう、お湯で丁寧に洗って保管します。

3.仕上げ
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仕上げにぼかしを入れ、最後に印を摺って出来上がり。
「もし版を重ねるうちに、印刷がズレてきたらどうするの?」
天然の木ですから、乾燥しすぎて反り返ってきたり、微妙に歪んだりして合わなくなってくることがあるそうです。そんな時は、版木に木を打ち込んで微調整。なかなか繊細で手間のかかる作業でした。

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いろいろ浮世絵について学んで来ましたが、最も気になる話が残りました。
それは・・・「浮世絵の値段」。
アメリカ出身、上方浮世絵研究の第一人者でもある美術商のピーター・ウィラキー氏に、いろいろとお話をうかがいました。

まずは、海外における浮世絵の評価について。
西洋の絵画にはない遠近法、色使い、空間の取り方が高く評価され、19世紀からマネ、モネ、ドガなどが浮世絵を収集、その強い刺激を受けた作品を多く残していることは広く知られています。上方浮世絵は”Osaka Prints”と呼ばれ、そのデザイン性とユニークさが人気。また江戸浮世絵と異なり大量生産されなかったため希少価値の高さもコレクターを刺激する要因だそうです。

では、どうやって手に入れるか。
欧米ではオークションが中心ですが、日本では店頭での販売も結構あるそうです。もちろんインターネット・オークションも盛ん。
そこで、いい浮世絵を見極めるためのポイントを4つ紹介します。
1.コンディションがよいもの
 色褪せしていたり、破れていたり、状態の悪いものは出来るだけ避けましょう。ただし、海外では古いものほど人気のある場合があります。
2.絵師
 人気の絵師によるものは高価。
上方浮世絵でいうと、状態の悪い流光斎(りゅうこうさい)の絵と、綺麗な芳瀧(よしたき)の絵を比べると、圧倒的に人気のある流光斎の絵が高いそうです。
3.ユニーク度
 いかに珍しいかどうかが大切。大量生産されたものや図柄が一般的な作品は評価されません。
4.役どころ名
 描かれている役者の演じている役どころが有名かそうでないかで、価値の変わることがあります。例えば、石川五右衛門などはとても好まれるそうです。

最後に最大の関心事、値段です!
コンディションの良い人気の流光斎作品で150万円程度。最高で500~600万円だそうです。
いかがですか?何億円で取引される西洋画に比べると、意外に安い・・・という印象ではないでしょうか。その他、時代の新しいものだと2~3万円、人気薄の絵師による作品だと数千円で入手できるものもあるとか。
これについては、世界の美術市場における日本美術品の評価が上・中・下の「中くらい」であること、大きな産業として発達し世界中に流通した江戸浮世絵に対し、上方浮世絵は認知度が低いこと、などが理由として考えらるようです。
現在、赤間教授は大阪城天守閣所蔵の浮世絵や、英国ヴィクトリア・アルバード博物館所蔵の浮世絵のデジタルアーカイブ化を手がけている途中、これがネットワークを通じて世界中に公開された場合、浮世絵研究に大きなインパクトを与えると予想されます。

もしかしたら・・・・・。
「上方浮世絵」の人気急上昇、サザビーズのオークションで○○億で落札される日が来る・・・ことを祈りつつ、今後のご研究に大いに期待したいと思います。
頑張れ!上方浮世絵!!

by CA

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