和泉流狂言の関西普及に活躍
小笠原匡さん
日本と西洋の仮面劇を融合した異色の公演「狂言vsイタリア仮面劇」が12月、大阪市中央区、山本能楽堂であった。日本側は和泉流狂言師の小笠原匡さん(44)、対するのはイタリアの仮面劇「コンメディア・デッラルテ」の俳優アンジェロ・クロッティさん。2人の本来の狂言、仮面劇のあと、新作コラボレーション(共同制作)「TONTO 盗人」の上演。イタリア人の盗人が大阪の博物館に忍び込み、手裏剣を盗み出そうとする物語。仮面をかぶった小笠原、アンジェロさんらの名人芸に、観客で埋まった能楽堂は拍手と笑いに包まれた。
この企画は、小笠原さんの「延年」の試みの一つ。延年とは平安朝のころ、法要の後に様々な芸能が集まって開かれた日本最初の演劇フェスティバルという。「狂言に近い、または影響を受けた芸能をコラボして、両者の違いや共通点を楽しんでもらいたい」。去年イタリアでの公演と仮面劇のワークショップに参加した小笠原さんが、アンジェロさんらに提案して実現した。
第1弾として06年に上演したのが「平成版・阿国歌舞伎」。歌舞伎発祥の地といわれる出雲の阿国を題材に、小笠原さんが演出、振り付けをし、妻で女優の尚子さんが阿国に扮した。翌年は平家琵琶と、去年は文楽人形とともに演じた。
小笠原さんは東京生まれ。狂言師とは縁のない家庭に育ったが、高校生のころ、国語の授業で能、狂言を学び、興味を抱いた。東京・水道橋の宝生能楽堂で初めて見た狂言は「にぎにぎしく、楽しく、ほっとするような和楽の世界だった」。高校を卒業後、8世野村万蔵氏(故人)に入門、国立能楽堂のプロ育成研修生(当時)となって6年間修行した。独立を許されたのは30歳のときだった。現在、重要無形文化財総合指定保持者。89年に師匠から、大阪・関西への和泉流狂言の普及のため大阪に派遣された。和泉流狂言の発祥は和泉(現在の大阪府堺市)だったが、関西では明治時代に途絶えてしまったという。
「知名度も身寄りもなかったので、工夫しながらコツコツと普及に努めてきた。和泉流を関西に浸透、定着させるのが目標」。大阪のほかの古典芸能との交流の中から、能、狂言、文楽、講談、落語、和太鼓の若手でコラボ集団「風流(ふりゅう)」を結成、公演活動も続けている。
大阪については「伝統文化の発祥地なのに、文化芸術に対する理解が深いとは言えないのが現状だ。様々な芸能を、チケットを買って足を運び、見てほしい」
「コンメディア・デッラルテ」との交流、公演活動を今回だけでなく、来年も続ける予定だ。そして、いずれはアンジェロさんらと、新作を携えてヨーロッパツアーも、と夢を膨らませている。
(文:七尾隆太 写真:谷川瑠美)
〔参考〕和泉流狂言師 小笠原匡
http://www.atelier-oga.com/