大阪ブランド情報局

研究成果で社会貢献

森勇介さん

 「研究はリスクへの挑戦だが、ビジネスとはリスクを減らすことへの挑戦。研究とビジネスは大違い」と話すのは、大阪大大学院工学研究科の森勇介教授(43)。大学発ベンチャー企業「創晶」(大阪市)の代表取締役だ。社長は同じ研究室の学生だった安達宏昭氏が務める。新薬の開発に欠かせないたんぱく質の結晶化を、製薬会社や化学メーカーから受託する会社で、05年7月に設立した。
 森さんは、画期的なたんぱく質結晶化技術を開発した。たんぱく質の溶液にレーザーを照射したり、かき混ぜたりして結晶化する方法だ。「後輩のたんぱく質の研究者に相談したら『非常識』と言われた」。たんぱく質の結晶をつくるのに溶液を混ぜることなど、それまでの常識ではご法度だったからだ。だが、後輩は森さんの実験現場を見て納得。その後、電気工学、応用化学や生物など異分野の研究者の連携による「創晶プロジェクト」が発足、手法の確立にこぎつけた。
 森さんは学生時代は工学部で半導体を研究、助手になってからはレーザーに関する酸化物の研究を始め、業績を上げて来た。「溶液を積極的にかく拌することは、風呂のなかでお湯をかき混ぜていて思いついた。専門外だったから常識はずれの挑戦ができた」と話す。

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 製薬企業からの要請もあり、研究成果でベンチャー企業を設立することに。「創晶」は大阪大の研究者らに加えて三菱商事の出資で設立した。森さんは妻の佐富子さんに出資を相談したところ、結婚前に貯めていた預金と保険などの解約で用意してくれたという。
 設立して4年、森さんは技術の有意性だけでは業績が上がらないことを学んだ。「ビジネスは、技術が優れているだけではだめ。取引先などとの信頼関係が大切だ。」という。
 研究開発、ビジネスを問わず、様々な分野・立場の人達が集まると、ちょっとしたボタンの掛け違いで予想外のトラブルも起きる。コミュニケーションを円滑にするため、創晶プロジェクトではカウンセリングをメンタルトレーニングとして取り入れている。「幼児体験に起因するトラウマを取り除くと、安心感と自信ができ、コミュニケーションが良くなる」と言う。
 06年に産学連携功労者表彰・科学技術政策担当大臣賞、日経BP技術賞大賞、07、08年に文部科学大臣表彰を連続受賞するなど受賞も数多い。次の目標は「窒化ガリウム(GaN)の結晶技術」の実用化。省エネ技術に大きく貢献できるという。
 関西での新産業の創出に当たっては、「ハコモノや仕組みをつくるだけでは限界がある。参加メンバーはお付き合いなのか、本当にアクションを起こす気があるのか、信頼関係の構築が欠かせない」
 趣味は心理学と真言密教。高野山にも年1、2回は参拝に出向く。
(文:七尾隆太 写真:仲田千穂)

取材日:2009年11月4日

〔参考〕
 創晶 http://www.so-sho.jp/