「維新派」をわが国の代表的な劇団に
松本雄吉さん
化石、昆虫、植物の葉脈などの入った標本箱が舞台上に積み上がっている。一辺60センチの正立方体の標本箱800個。カエルの骨格やワニもある。劇団員らが約3カ月がかりで作った。便器、鍋のふたなど日用品の〝標本〟も登場する。出演者約30人の顔は白塗りだ。
劇団・維新派の公演は、いつでも奇抜で目をむく。今回の「ろじ式」の大阪公演は11月、精華小劇場(大阪市中央区)であった。廃校の体育館を改造した150席ほどの劇場。維新派の主宰者で、作・演出の松本雄吉さん(63)は、大阪市中央区の劇団事務所でよどみなく語った。「開発が進んで都会からなくなっている路地に愛着を感ずる。路地はある種のアジア的空間だと思う。芝居で取り上げることによって、その良さを表現したかった」
大阪大学総合学術博物館(大阪府豊中市)では12月12日までの約2カ月半、企画展「維新派という現象『ろじ式』」が開かれた。
70年に旗揚げして以来のチラシ、ポスターから衣装、写真、舞台模型、小道具などまで劇団の関連資料が出品された。展示は、路地風の空間を歩きながら見るように工夫されていた。松本さんは「維新派40年の歴史というよりも、日本の世相史の生き証人のような内容になった」
「ヂャンヂャン☆オペラ」と名づけた独自の演劇スタイルを確立して支持を広げ、わが国を代表する劇団となった。変拍子のリズムや中腰の動きを基本とする。「5拍子、7拍子のリズムには言葉の多様性がある。中腰の動きは、能などに見られる日本人の身体に合った伝統の様式」
野外劇にこだわっている。劇団員ら約100人が現場に泊まりこんで、一カ月以上もかけて舞台を組み立てる。自然が舞台の借景になる。去年は琵琶湖畔の水上舞台で「呼吸機械」、02年には岡山県・犬島の銅精錬所跡の舞台で「カンカラ」を公演した。松本さんは「公演で一カ月ほど東京に滞在したら、演劇人が多過ぎて演劇づけになってしまった。少しはのんびりできる大阪がいい。性に合う」と話し、大阪を拠点に活動を続ける考えだ。
先ごろ、精華小劇場で開催するポスター展に裸の胸が描かれた作品が出展されることになったことに対して、行政が注文をつけたことに松本さんは怒った。「時代遅れもはなはだしい。まちを歩けばヌードはいくらでも目に入る。維新派の公演も、海外では現代的と評価されるのに大阪の行政はゲテモノ扱いだ」
来年7月、瀬戸内海で開かれる瀬戸内国際芸術祭に参加、再び犬島で野外公演、再来年には世界3大演劇祭の一つ、エジンバラ(スコットランド)で公演をすることになっている。
(文:七尾隆太 写真:谷川瑠美)