なにわの「語り部」
高島幸次さん
セミナーや講演会への出番が、去年1年間に30数回。テーマは天神信仰・天神祭、大阪の歴史(特に中之島)、まちづくり、それに近江の歴史――。「なにわの語り部」、高島幸次さん(60)=大阪市淀川区西宮原=の手帳は、今年も講演予定で詰まっている。
天神祭を1ヵ月後に控えた大阪でのある市民塾。 「天神祭を、日本3大祭の1つと言うのはやめよう」と切り出した。天神祭、祇園祭(京都)、神田祭(または山王祭、東京)を3大祭と呼ぶのは定説のはず、と思いきや、「3大○○というのは、3番目が格を上げたいために言うこと。天神祭は歴史、規模からいって抜きん出ている」。分かりやすく、ユーモアにあふれる話しぶりが場内を笑いに引き込む。
「語り部」曰く。祇園祭が室町、神田祭は江戸時代に始まったのに対して、天神祭は平安中期、大阪天満宮が創建された翌々年の鉾流神事がルーツ。ケタはずれに古い。また、見物客も1晩で100万人を超し、他の祭りとは比較にならない。それに、祭りにかかわる人たちと見物人の間に断絶がないのも大きな特徴、と。そういえば、大川を行き交う100隻もの「船渡御」行列と、川岸や橋の上の見物客との間の「打ちまあしょ…」の交換は祭り気分を高揚させる。
生っ粋の大阪人。龍谷大大学院で日本近世史を修めて夙川学院短大に奉職。去年3月まで教授を務めた。現在は大阪大招聘教授。20数年前、大学の恩師に「大阪生まれなのに、近江の研究ばかりで地元大阪に貢献しないのはいかんやないか」と言われ、85年から大阪天満宮文化研究所(当時は大阪天満宮史編さん室)の研究員を兼任している。天満宮はたびたび火災に遭ったが、享保年間からの古文書が約3000点。
文献を読み込んで天神信仰を調べているうち、天神さんの研究にのめり込む。天神信仰の延長線上に天神祭があった。編著に『天満宮御神事御迎船人形図会』など。
「日本一の祭りなのに案内人がいない」と、00年にガイドを養成する「天満天神御伽(おとぎ)塾」を開設。90分の講習を10数回にわたってしごかれた約20人が今、「御伽衆」として活躍している。今夏、第4期目を開塾する計画だ。船で川を巡る「水都大阪再発見クルーズ」(大阪21世紀協会主催)のガイド役を自ら務めたこともある。
最近、強く提唱しているのが「中之島学」。その昔、米取引の拠点だった中之島は現在、経済や文化の集積地。「中之島を人のネットで結んで『知の蔵屋敷』に」と語り口は熱っぽい。
天神祭本宮の25日は例年通り、テレビか船上で「語り部」を務めているはずだ。
(文:七尾隆太 写真:ショーン・ケンジ・マドックス)