「上町学プロジェクト」の旗振り役
河内厚郎さん
「天下の台所」「東洋のマンチェスター」といえば、大阪を象徴するキャッチフレーズとしてなじみ深い。この「商都」「工都」の呼び方に異を唱え、新たに「古都おおさか」として売り出そうと、関西経済同友会と学校法人・追手門学院が連携して「上町学プロジェクト」に取り組み出した。座長として旗振り役を務めているのが文化プロデューサー、河内厚郎さん(57)。同友会幹事で、追手門学院大学客員教授でもある。
「古代の大阪は港町として栄え、中世には宗教都市としての性格を有した。豊臣時代は政治都市、徳川時代には商業・興行都市になり、近代は工業都市に――。大阪は、時代によって産業構造をがらりと変えて来た」
河内さんは早口で舌を振るい「特定の一時代に寄りかかった呼び方をせずに、原点に戻って歴史都市を打ち出し、情報発信して行った方がいい」と結論付ける。「古都おおさか」の中核として手始めに提唱したのが「上町学」という。
大阪・上町台地は、大阪市内中央部を南北に貫き、古代はすぐ下に海が迫っていた。界わいには、大阪を代表する歴史・文化遺産が数多く残っている。
プロジェクトの活動期間は約2年半。ゆかりの文化人とのトーク、歴史スポットの散策など「上町再発見講座」、観光ルートづくり、新作の古典劇の製作など7つの事業計画を策定。07年末には河内さんとミステリー作家有栖川有栖さんとのトークショーを開いた。既に活動している他グループとも連動していく。
河内さんは兵庫県西宮市生まれ。76年一橋大法学部を卒業して、東京の保険会社に就職したが、「向いていない」と1年もしないうちに退社。シャンソン歌手、役者、司会などをしながら約7年間、東京生活を送った後、83年に帰郷する。雑誌『演劇界』に応募した歌舞伎評が入賞したこともきっかけとなり、執筆活動などを始めた。「幼稚園のころから、叔母に連れられて何度も大阪で歌舞伎見物をした」
歌舞伎にとどまらず、関心領域は幅広い。「一文化のオタクではなく、芸能とまちづくりなど体系づけて考え、行動するのが好き」。夙川学院短大特任教授、はびきの市民大学学長、「関西・歌舞伎を愛する会」代表世話人などとしても活躍中だ。『わたしの風姿花伝』、有栖川さんとの対談をまとめた『大阪探偵団』など京阪神の歴史・文化をテーマにした著書も多い。活動が評価されて大阪市の「咲くやこの花賞」を受賞している。
明治時代に創刊された総合文芸誌『関西文学』の編集長を2度にわたって約15年務めた。部数減などのため08年春、休刊に追い込まれたが、「伝統の灯は消したくない。一両年中に復刊させたい」と支援を呼びかけている。
(文:七尾隆太 写真:竹内 進)
[参考]
河内厚郎事務所 http://www.bunka-produce.jp/