大阪ブランド情報局

「節分お水汲み祭り」をデザイン

中崎宣弘さん

大阪の繁華街、北新地の一角に建つ堂島薬師堂。球状のミラーガラスの建物は、昔ながらの御堂には見えないが、推古朝からの歴史を刻むという。御堂を囲む池には琵琶をつま弾く「水掛け弁才天」が浮かび、辺りにコインが投げ込まれている。このブロンズの「弁天さま」はデザイナー、中崎宣弘さん(56)=大阪府箕面市在住=の作品だ。
 早春の2月には一帯で、「節分お水汲み祭り」が催される。伝統の「節分」と04年に始まった「お水汲み祭り」が翌年から統合され、新しい祭事として話題を広げて来た。この「節分お水汲み祭り」をデザイン面からサポートしたのが中崎さんだ。弁才天だけでなく、竹筒のお水汲み護符、法被、のぼり旗、ハスの形をした水盆やポスターまで、中崎さんのデザインだ。祭りのコンセプトは「春を呼ぶ、福を呼ぶ」。水都・大阪の再生、大阪の文化の復興などの願いを込めた。

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 大学で版画、リトグラフを学んでサントリーに入社、ワイン、ウイスキーなどの製品デザインに精を出して12年目の89年、突然退社して家族5人で渡米する。「一通り仕事をし終えた。違った分野で活動してみたいと思ったから」。サンフランシスコの自然科学博物館「カリフォルニア・アカデミー・オブ・サイエンス」では展示デザインなど新鮮な世界を経験した。2年後に帰国して独立、現在は京都にデザイン事務所を構える。
 サントリー「山崎ウイスキー館」、京都府亀岡市の市制50年記念行事のプロデュース……。活動の舞台はモノのデザインから空間デザインへ広がり、いま、「空間構想デザイナー」「絵師」を名乗る。 
 サントリー時代から放浪旅が好きで、訪れた国は36カ国に及ぶ。訪ねた先々で、出会った自然、人などをスケッチブックに納めた。こんな経験から、デザインする前に「旅人だったらこのまちを、この店をどう見るだろう」という発想、視点に立つという。
  では、旅人の中崎さんに大阪の現状はどう映るか。「あまり魅力的でない。端的に言って自然がない。まちの美しさは人間が自然とどうかかわっているかだ」と容赦ない。京都に事務所を置いているのも「京都にはゆらぎがある。季節ごと、日々に変化があり、刺激される」。大阪はどうしたらいい? 「川からの視点が大事だ。川と橋を中心に物語をつくって詩情を感じさせるようなまちに」
 この春、「全仕事」を『旅とデザイン ウイスキーから人、空間構想へ』(淡交社)にまとめた。目次が14のキーワードになっている。「現場で発想せよ」「まず、もとを探そう」「高くダイナミックな視点を持つこと」――。
(文:七尾隆太 写真:ショーン・ケンジ・マドックス)

取材日:2008年8月12日

[参考]
Nobu's Art & Design http://www.nobu-design.com/