大阪ブランド情報局

「社学連携」を提唱し率先

鷲田清一さん

 阪急・石橋駅から徒歩10分余り。大阪大学豊中キャンパスのイ号館内に、「大阪大学21世紀懐徳堂」が昨春、オープンした。懐徳堂は江戸時代に大坂の町人らが開設した学問所。その精神を現代によみがえらせようとのねらいで、阪大初めての哲学者総長、鷲田清一教授が強く推進した。「産学連携」ならぬ「社学連携」を提唱、ここを拠点に市民、企業などと連携、いろいろな社会貢献活動に取り組む。案内パンフには「大阪の“元気”を応援します」とある。
 現代版懐徳堂には、多目的スタジオなどが設けられ、講義、対話集会、コンサートなどに活用。地域住民の科学技術などに関する相談に教員や学生が対応する「サイエンスショップ」の窓口も置かれた。京阪・中之島線なにわ橋駅の地下1階に、京阪電鉄とともに開設した「中之島コミュニケーションカフェ」も活動の一環。市民らとの対話の集いを連日のように開いている。

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 阪大は懐徳堂と、緒方洪庵が開いた私塾「適塾」の二つを精神的源流と位置づけている。鷲田総長は「社会に開かれた学舎だったという原点に立ち返って、大学が持っている『知』や人材を社会に提供し、文化の再興を支援したい」。
 総長の専門は臨床哲学。象牙の塔にこもらず、現場に出かけて行って議論しながら問題を解決する学問。高校時代から思想に関心を持ち、京大で哲学、倫理学を修めた。「パスカルは高校のころから折に触れて何回も読んだ、私の聖書」。『モードの迷宮』『「聴く」ことの力』『死なないでいる理由』など多彩なテーマの著書があり、ファンも多い。
 大阪が「笑いのまち」「けち」と言われるのは誤解、学問と芸術の「国際学芸都市」であると、機会あるごとに説き、「文句言い」はやめようと呼びかけている。08年末の講演でも「大阪の市章の原点に戻って、誇りを取り戻す気概を持とう」と訴えた。市章はおなじみの『澪標(みおつくし)』。川の浅瀬に立てられていた標識だ。「表面に惑わされずに大事なもののありかを示す。また、大事なものに身を尽くすという掛け言葉になっている」と鷲田総長。
 ファッションにこだわり、ジャケット、スーツなどヨウジヤマモトやポール・スミスのブランドを着こなす。07年8月総長に就任してからもこんなスタイルは変えず、学外にも気楽に出向いてメッセージを発信し続けている。
(文:七尾隆太 写真:竹内 進)

取材日:2008年9月25日

[参考]
大阪大学/ようこそ総長室へ http://www.osaka-u.ac.jp/jp/annai/president/index.html