「関西ハリウッド化構想」を提唱
塩屋 俊さん
大学生の一人息子を交通事故で奪われた実在の母親をモデルにした映画『0(ゼロ)からの風』が公開されて1年半、全国のどこかでほぼ毎日、自主上映が続いている。塩屋俊監督(52)の作品で、母親役の田中好子が好演している。観客は10万人を超えた。
神奈川県在住の造形作家、鈴木共子さんの息子、零さんは2000年春、無免許で、泥酔状態の男が運転する車にはねられ、友人とともに即死した。零さんは早大に入学してわずか1週間後だった。悪質な事故にもかかわらず、加害者の刑は「業務上過失致死傷罪」でたったの5年。憤慨した共子さんは被害者仲間と署名運動を展開、2年後に最高刑期20年の「危険運転致死傷罪」の成立につながる。同時に、共子さんは息子が残した机、参考書で受験勉強、3年後に早大に入学を果たし、57歳で卒業した。「飲酒運転の危険性だけでなく、子どもに対する親の愛情はどれほど深いか、を伝えたかった」と塩屋監督。
この映画のロケ地はほとんど大阪。早大は吹田市の関西大、車の逃走シーンは箕面市内の林道、厚木警察署は大阪府庁舎、裁判所は大阪市中央公会堂、といった具合。ロケには、大阪ロケーション・サービス協議会(事務局・大阪商工会議所内)が協力した。塩屋監督にはこれまでも、「ビートキッズ」(05年)などの大阪ロケ作品がある。
慶大在学中の80年に俳優デビューして、国内外の映画、テレビに相次いで出演。現在は俳優、映画監督、プロデューサー、演技講師など多彩な活動をしている。
94年に俳優養成学校、「アクターズクリニック」東京校を創立、02年には同大阪校(北区東天満)を開校した。「どんなに忙しくても2週間に1回は、大阪校で直接指導している」。大阪校からはこれまで、400人余りが巣立った。
数年も前から、関西を映画制作の拠点にする「関西ハリウッド化構想」を提唱している。「日本で映画が最初に公開されたのは神戸、京都撮影所ができる前に、東大阪にも撮影所があるなど、関西は映画の先進地。海、山、都会始め、映画撮影に必要なありとあらゆるシーンもそろっている」。そのうえで、「大阪・関西で映像作品をつくり、東京を経由しないで、映画の中心地、香港、上海、ソウルに発信すればいい」と主張する。
実現に向けてのハードルは高いが、「映画作品をつくり続けることが大事だ」と意欲十分。来春、日韓の中学生の国際交流をテーマにした映画もクランクインする。大阪府柏原市と韓国・釜山でロケ、来年秋には公開する計画だ。
(文:七尾隆太 写真:竹内 進)
[参考]
アクターズクリニック http://www.actors-clinic.com/
『0(ゼロ)からの風』公式サイト http://www.zero-karano-kaze.com/contents/intro.php