若手アーティストたちを「digout」
谷口純弘さん
流れる音楽はロックだけ。クラシック、ジャズ、演歌は一切なし。こんな戦略が若者に支持されて、大阪のラジオ局「FM802」は抜群の人気を誇っている。ラジオ放送なのに、もう一つのコンセプトが「ビジュアル」。そのわけを、プロモーション担当の谷口純弘さん(44)は「見えない媒体だからこそ見せることにこだわろう。そうすれば、いずれ『802』を聞いてくれるに違いない、と考えた」と明かす。
絵の好きな若い人から、作品を募ってロゴマークやステッカーを作った。94年からは、オーディションで優れた作品を選んで展覧会を開催。11回目の去年は、関西だけでなく全国の約800人から応募があった。
こんな活動は、開局10周年の00年からプロジェクト「digmeout(ディグミーアウト)」に発展する。名付け親は谷口さん。気鋭の若手アーティストを「digout」(発掘)して、作品をポスター、ステッカー、番組ガイド、ウェブサイトなどを通じて紹介、エージェント機能も持って自立できるまで支援しようという取り組みだ。
評判が広がって、企業とのコラボレーション(共同作業)が相次いで生まれた。作品がりそな銀行のキャッシュカードに次々に起用されたり、人気歌手のCDジャケットになったり、東京・銀座ソニービルの巨大壁面に登場したり……。英文付きの作品集「digmeout」も創刊して海外にも発信、国際的に活躍するアーティストたちも育っている。
大阪・ミナミのアメリカ村で運営しているギャラリーカフェ「digmeout ART&DINER」の一角で、谷口さんは「局のプロモーションを越えて、若い人の人生を左右しかねないプロジェクトになってきた。使命感を感じる」と話した。ここは、クリエイターたちのたまり場になっている。
関西大社会学部に学びながら、コピーライター専門学校に通った。卒業後、広告デザイン事務所でコピーライター、アートディレクターをしていて、90年に開局1年目のFM802にスカウトされた。「東京は広過ぎて、アーティストを発掘して育てる仕組みはできにくい。大阪は適度に狭いので、活動しやすい」と言い、有望新人「発掘」のため、今日も自転車で大阪の街にこぎ出す。
(文/七尾隆太 写真/仲田千穂)
[参考]
digmeout.net http://www.digmeout.net/index.cfm
digmeout ART&DINER http://www.under-lounge.com/digmeout/
FM802 http://funky802.com/index.php