火と水の祭~大阪天満宮 天神祭宵宮(7/24)
天神祭とは、そもそも日本全国各地の天満宮及び天神社で行われる祭のこと。なにも大阪に限ったものではない。しかし、群を抜いて有名なのは、やはり大阪の天神祭だ。生國魂神社の愛染祭、住吉大社の住吉祭と並ぶ大阪三大祭の一つであり、京都の祇園祭、東京の神田祭と並んで日本三大祭にも数えられる。とりわけ壮麗な陸渡御、船渡御の出る本宮の日は、近辺の橋という橋、通りという通りが人で埋め尽くされ、最寄り駅の改札はどこも通行不能なほどごった返す。
これだけ代表的な祭だが、実際に天神祭に行ったことがないという大阪人は、けっこういるものだ。私もその一人で、初めてナマでこの祭を見たのは、オフィスの窓から船渡御が眺められる今の職場に入った2年前のことである。それでも、大阪人にとって、祭といえば天神祭、実物を見たことがなくても“何となく誇り”なのである。
大阪には、春祭や秋祭にくらべて、格段に夏祭の数が多い。夏の厳しい大阪でもとりわけ暑い盛りの7月下旬に行われる天神祭は、元来、伝染病予防の祈願と深く結びついている。詳しくは島崎武氏の記事を参照いただきたいが、大阪の夏祭の多さは、疫病除けの祈願と深く結びついている。夏、ひとたび疫病が流行すれば、密集した都市は農村よりはるかに伝染の規模が大きいわけだが、同じく大都市であった京や江戸と比べても多いのは、大阪に「祓いの聖地」という意味合いがあったことに関係するようだ。そして、“水”と密接に結びついてきた大阪は、文字通り穢れを水に流すことで都市の平安を祈願してきたのだ。
鉾流神事
天神祭に話を戻そう。観衆の目は華やかな渡御列や花火だけに向かいがちだが、祓い、禊ぎという祭の根本に立ち返るならば、鉾流神事こそは天神祭の真髄ともいえよう。これは賑やかな祭というより、しめやかな神事そのもの。宵宮祭の朝、鉾流橋のたもとから小舟を漕ぎ出し、穢れを神鉾に託して大川に流すこの神事は、笛の音を背景音に、不思議な静寂の中で執り行われる。今よりはるかに「水の都」であった大阪の人々の願いが古の日々からよみがえるのを見るよう。ちょっとしたタイムトリップを味わった。
さて、この鉾流神事をはじめ、天神祭全体を通して欠かすことのできない重要な役目を担うのが、「神童」である。西天満の町内会が組織する「神鉾講」の中から選ぶのが慣わしで、例年西天満小学校の男児がつとめている。神童に選ばれると、祭が終わるまでの期間、本人とその家族には肉食や殺生の禁止(蚊一匹やっつけてはいけない!)など厳しい制限が課せられるのだそうだ。神童は、鉾流し神事で神職とともに斎船に乗り込み、大川に鉾を流す。本宮祭(25日)の渡御列では、梅の瑞枝を持って神様のお供をする「瑞枝(みずえ)の童子」の役目を果たす。
鉾流神事が終わると、一行は天満宮までの道のりを行列していく。この時も神童は注目の的。マスコミ関係者からマイクを向けられ、感想を聞かれたりしている。その隣には、男の子のご両親であろうか、誇らしげに付き添っていた。
時代絵巻さながらの行列もまた、祭の気分を盛り上げる。地元の人々が古式ゆかしい平安装束を着て暑い中をゾロゾロと歩いていく。普段はGパンにTシャツの中高生ぐらいの男の子たちも多い。境内に着くと、「あっつ~。終わったぁ~」と、とたんに素に戻るのが可愛い。遠方からも多くの観客を集める天神祭だが、こういうシーンに出遭うと、この祭がとりもなおさず地元の人々によって担われ、受け継がれていることを実感する。
地車囃子・催太鼓・どんどこ船宮入り
天満宮境内では、終日地車囃子(だんじりばやし)が鳴り響いている。しめやかな水辺の神事とはうって変わって、ここは庶民のパワーが炸裂する祭の賑わいそのもの。鉦や太鼓の音が響きわたり、獅子舞や龍踊りが繰り広げられる。獅子舞の獅子に頭を噛んでもらうと、ご利益があるという。龍が爪を立てて天に昇る様子を模した龍踊りは、独特のフォームがどこかユーモラスだ。
午後4時頃からは催太鼓の氏地巡行が始まり、それに先立ってどんどこ船が宮入りする。うねるような動きで太鼓の台車やどんどこ船が曳き回される様は迫力満点、祭の高揚をいやがうえにも高める。ここには、熱気あふれる祭の磁場が渦巻いている。祭というのは本質的に、見るものではなく参加するものなのだ、と感じ入る。
境内の外でも獅子舞や祭囃子が終日、商店街などを練り歩き、あたり一帯が天神祭一色である。
お迎え人形
さて、天神祭でぜひ注目してほしいのが、素晴らしきお迎え人形たち。お迎え人形は、船渡御が今とは逆に堂島川下流に向かうルートで進んでいた元禄期に始まり、下流に住む氏子らが船渡御を迎える船の舳先に飾られていた。江戸後期には50体ほどがあったが、戦災などで焼失、16体が現存している(うち14体は大阪府指定有形民俗文化財)。
お迎え人形は、能や歌舞伎の題材に基づくことが多く、羽柴秀吉、酒田公時、安倍保名、関羽など和漢の歴史や物語の登場人物が多い。当代屈指の人形師が腕によりをかけて作ることも多かったようで、それぞれの町が競い合うように豪華な人形を掲げたという。かつてこれらの人形は、それぞれの町が所有していたが、現在は大阪天満宮が保管し、祭の期間中、数体が展示されている。2メートルほどもある人形は超大型の文楽人形さながらの精密さ、いずれもその表情やポーズ、衣装など、当時の人々の祭にかける心意気を鮮やかに見せてくれる。ぜひ一見されたし。
●マメ知識―天神祭と赤
天神祭を彩るカラフルな色彩の中でも、とりわけ精彩を放つ赤。これは、赤に疱瘡除けの威力があると信じられていたことに由来し、元来、疫病祓いを旨とする天神祭にはよく使われているようです。そういえば、催太鼓の叩き手の被り物やお迎え人形の衣装、関羽の赤い顔など、赤が目立ちます。赤は天神祭のキー・カラー。注目してみてください。
(ブランドコラボセンター 小村みち)
スケジュール 7月24日(宵宮)
7:45 宵宮祭(本殿)
8:50 鉾流神事(鉾流橋)
16:00~催太鼓・獅子舞氏地巡行・どんどこ船宮入
終日 地車囃子
アクセス 地下鉄谷町線・堺筋線「南森町駅」下車→DEF階段を上り④出口を出て 天神橋商店街を右へ、二ツ辻目を左へ50m
JR東西線「大阪天満宮駅」下車→③出口(東西線アクセスビル)を出て
天神橋商店街を左へ、二ツ辻目を左へ50m
所在地 〒530-0041 大阪市北区天神橋2丁目1番8号
Tel : 06-6353-0025 E-mail : info@tenjinsan.com
URL : http://www.tenjinsan.com/
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