玉造稲荷神社 夏祭り
◇玉造稲荷神社について◇
玉造稲荷神社は垂仁天皇18年、紀元前12年創建の
非常に長い歴史を持つ神社である。
当社の名前にある「玉造」は地名に由来するが、
この地が古代、勾玉を作っていた地であることを示す。
当社が鎮座する場所は、大阪城の南、300mほど。
JRまたは地下鉄の「森ノ宮駅」と「玉造駅」の間となるが、
このあたりから天王寺までの一帯は上町台地と呼ばれる古代大阪、古代日本のルーツの地である。
同社は大坂の陣や第2次世界大戦など幾多の戦災・火災に合いながら、
氏子・崇敬者の手でその都度再建されてきた。
現在の社殿は戦後昭和29年に竣工したものである。
特段の観光地でもないうえに、社殿は戦後の再建であるから、観光目的でここを訪れる人は少ないかもしれない。
住宅やマンションの多い静かな街並み中にひっそりとたたずむ、緑のオアシスといった風情である。
しかし、当社は一般の方には知られていないが、みどころの多数ある神社でもある。
境内には勾玉の資料館「難波・玉造資料館」や
豊臣秀頼と淀君を結ぶ胞衣(えな/よな)を祀る胞衣塚、
千利休や、漫才の父・秋田實の顕彰碑、
現代のお伊勢参りともいえる伊勢迄歩講起点碑、
また、かつての水都大阪の繁栄をしのばせる猫間川川浚碑などなど。
時代も内容も様々で歴史好きならずとも興味がつきない。
◇夏祭りの風景◇
本年の夏祭りは7月15日、16日開催された。主な内容は
7月15日 【祭だ!ワッショイ!こどもみこしを引こう!】
【なにわの伝統野菜・玉造黒門しろうり食味祭】 、
7月16日 【秋田實奉納演芸】 小獅子踊り、福引
観光客向けの派手な演出はないが、
夜店が開くころともなると、
思いのほか、広々とした境内が
祭りを楽しむ人であふれんばかりになる。
夏休みの最初の時期というのもあるのだろう、
子供たちが多く集まっているのが印象的だ。
氏子や地元の人々に根付いた祭りであるが、
【なにわの伝統野菜・玉造黒門しろうり食味祭】
【秋田實奉納演芸】には当社の歴史・文化に対する姿勢が感じられる。
それは、地域の歴史を尊重し、幾多の戦災で失われた記憶を発掘し、
後世に伝えようという姿勢である。
◇なにわの伝統野菜・玉造黒門しろうり食味祭◇
この催しは、なにわ伝統野菜として知られ
る黒門越瓜(しろうり)を
復活、保存、普及する活動として
2002年から保存会である
「玉造黒門越瓜出隊」(たまつくりくろもんしろうりだしたい)
によって行われている行事である。
黒門越瓜とはこの玉造に産する越瓜(しろうり)のこと。
その名は、大阪城の玉造門が黒塗りであったことに
「しろうり」の白を対比させたという粋な由来をもつ。
特に良質な瓜ゆえに、江戸時代には浪花名産の一つに数えられたが、
明治以降は、この地域も市街化し、瓜を栽培する人も減り、
やがて忘れ去られてしまったという。
同社の禰宜をつとめる鈴木伸廣氏は、
地域の歴史を調べるうちに黒門越瓜のことを知り、
専門家の協力を得て2002年に復活栽培するにいたった。
食味祭では、神社の境内の南側に設けられた畑で収穫された黒門越瓜が、
毎年工夫をこらした調理法で振舞われ、この夏祭りならではの楽しみとなっている。
このほか、キャラクターの「くろもんちゃん」も登場してにぎやかにこの伝統野菜をPRする。
◇秋田實奉納演芸◇
秋田實奉納演芸は夏祭宵宮に開催される市民寄席、
上方笑いの父・秋田實を偲ぶ奉納演芸である。
秋田實は、この玉造稲荷神社近くに生まれ、
戦前はエンタツ・アチャコに台本を提供しその魅力を引き出し、
戦後は荒廃した漫才界を復興するために若手の育成に努めた
「漫才の父」と称される人物である。
昭和52年に秋田實は亡くなるが、
その功績を記念して「笑魂碑」が翌53年に同社の境内に建立された。
そして、奉納演芸もこの年から開催されるようになった。
以来、秋田實の遺徳を知る芸人さんや若手の芸人さんが舞台にたち
市民に笑いを届けている。
この玉造稲荷神社は、江戸時代には幕府から許しを得て
上方演芸を実施した場所でもある。
「秋田實奉納演芸」は、大衆文化発祥の地である歴史を
今に伝える催しということもできる。
◇歴史を語り伝える祭り◇
当社のパンフレットには
「当神社は近世、大阪夏の陣や第二次世界大戦の戦禍によりことごとく文化財を焼失しました」とある。
戦火によって、貴重な歴史的資産が灰燼に帰した結果、
2000年以上の歴史があるにもかかわらず、
それを目にみせて示すことができない。
歴史が豊富であればあるほど、
その歯がゆさはひとしおではないかと想像する。
しかし、当社では、前向きに精力的に、埋もれた歴史を発掘し、
地域の人々に披露し、そしてそれを後世に伝えようと取り組んでおられる。
その結果が、この見どころの多い神社となり、今の夏祭りとなっている。
歴史を知ることは、地域が誇りを取り戻し、地域の絆を強くすることにつながる。
これは現代の神社にとって重要な使命の一つであると、同社の宮司鈴木一男さんはいう。
それは、長い歴史やそれに培われた文化を持ちながら、
まだまだ市民・府民に伝わらない大阪全体に必要な考え方といえる。
日 時 :宵宮 7月15日(木)
本宮 7月16日(金)
所在地:〒540-0004 大阪市中央区玉造2丁目3番8号
地下鉄 玉造駅
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